試用期間と雇用トラブル・歯科経営

歯科医院経営で特に多いのが雇用トラブルではないでしょうか?
実際に開業された歯科医院さんの3軒に1軒は雇用トラブルに見舞われます。
では、どうして雇用のトラブルが発生するのでしょうか?

1.応募、募集のスキームが出来ていない

現実的に仕方が無いことなのですが、歯科医院経営者は企業などでの勤務経験を持つ人は9割以上いません。
歯科医院以外で働いたことがない人も多いのです。良くて学生時代のアルバイト、つまり面接経験はそのアルバイトと勤務した歯科医院だけという方がほとんどじゃないでしょうか?
つまりは面接の手法をまったく分かっていない状態で面接をしてる、もしくは面接してるつもりになっているのです。
これでは、失敗して当然だと思います。

・募集媒体は何に出すのか?いくら掛けるのか?
(いくら掛かるではなく、「掛けるのか?」が重要)

・欲しい人材はどのような人材なのか?
(ただ漠然と歯科衛生士、歯科助手だと働かされる側も戸惑う)

・ホームページなどに募集内容の詳細は記載されているか?

最低でも、これくらいは考えておくべきです。募集だけのためにサイトを作り、学べる環境、スキルアップできる環境をアピールすることも、優秀な人材を確保するには大切なことです。

このようなサイトを作ることも1つの手法です。金額についてはお問合せ下さい。けっこう安いです。

2.就業規則や雇用契約書

ほとんどの歯科医院経営者は就業規則も雇用契約書も作成してませんし、雇うスタッフへも説明をしていません。
つまりは、雇用者側に言われたら負けの状態を自分で始めから作っているのです。実際に私に相談してくる先生の多くは、1度か2度、どうしようもないスタッフを解雇しようとしたが、すっかりクビに慣れているスタッフは目を輝かせながら、

「解雇ですか?1か月分のお給与いただけますよね?」

と、さもボーナスを貰えるかのように話してくる。入社して1ヶ月目でも2ヶ月目でもです。

3.試用期間の正しい知識

使用者側には「解雇権」があります。しかしながら、皆さんが解雇したいという理由は『解雇法理』で判断すると、正当な解雇と言えることはほとんどありません。
つまり、『不当解雇』と判断されることがほとんどです。
現実問題、懲戒解雇にするにも相当の手法やルールを作っておかないと難しいもので、小さなコミュニティ経営の歯科医院では開業時に導入するか、法人化するときにしっかり作らないと、毎回面倒なことになります。

『解雇法理』は試用期間中である場合とそうでない場合とに関わらず適用されます。
試用期間中であっても原則として解雇は同じように難しいものです。
ただし、試用期間中であれば少しだけハードルが下がることも事実ではあります。

(1)解雇予告

解雇の有効性の問題に関わらず、解雇する場合は原則として30日の予告期間が義務付けられています。
30日の予告期間を設けない場合は30日分の賃金を支払うことが義務付けられています。(予告期間が15日の場合は15日分の賃金を支払う)

試用期間での解雇予告手当に関してですが、試用期間中の解雇の場合は解雇予告手当を支払わなくても良いことになっています。ただし、14日を超えて使用した場合は、試用期間中であっても予告手当の支払義務は発生します。

[例]試用期間3ヶ月と言ったんだけど・・・
よく、先生に「募集広告に試用期間は3ヶ月って書いてあるから、その期間は辞めさせてもいいんじゃないの?」という相談を受けますが、残念ながら答えは「No!」です。

(2)ではどうするべきなのか?

結論から言うと、14日で使い続けるか解雇するか判断して下さい。
労働基準法21条に「解雇予告手当の除外規定」というものがあります。14日を超えると試用期間中と見なされない、除外対象になるので経営者は雇用者を14日間の間に判断しなくてはなりません。

4.根拠の説明

労働基準法20条 第1項(解雇の予告)

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
尚、労働基準法21条に解雇予告手当の除外規定があり、『試用期間中のもの』という定めはあるが、14日を超えて雇用された場合は除外対象となる。

労働契約法16条 (解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

 

6.すでにトラブっってしまっているケースでは・・・

あくまで一般的なケースで説明すると、

トラブル(労働者からのクレーム)が発生している以上、対応策は慎重に検討すべきでしょう。
トラブルの相手がどのような行動に出るか予測しながら、使用者が最終的な経営判断するしかありません。具体的な対応策の例ですが、多くの皆さんが選択する手法は、

  • 解雇の『有効性』を争う可能性があることを覚悟の上で強気に出る。
    ➜ 一方的に解雇を通知し、解雇予告手当も一切支払わない。
  • 「労働基準法における解雇予告期間は30日であるので、残り15日分払いますよ」という説明をして、先方に納得してもらい、円満な解決を目指す。
  • あまり多くの反論をせずに、30日分の賃金を支払う。

解雇の有効性を争うことになり、敗訴した場合は、解雇の日からの賃金相当分を払い、その後も雇用を継続しなければならないという大きなリスクが発生します。

就業規則の内容・雇用契約書の内容・対象雇用者を解雇するに至った詳細、等が分からないので、そのリスクの高さは判断できませんが、少なくても③→①の順でリスクは高まります。

7.追記

多くの歯科医院経営者の方は、人材でトラブルを経験することがほとんどではないでしょうか?
中には物品や金銭の行方が分らなくなることが起きる・・・という医院からの相談もあります。

ある程度の経験は経営者には必要ですが、自分の医院をしっかりとした会社組織のように成長を望むのであれば早い段階でコンサルタントをサポート役として着ける事を勧めます。
そしてコンサルタントで重要なのは、会社経営では当然ですが権限をしっかりと与えることです。
アドバイスだけ受けて、それらを掻い摘んで(つまんで)経営選択を決定する医院はおおよそ成長はしません。

会社でも同じことが言えますが、役職や職責に権限を与えることは最も重要なことです。
特に雇用に関しては、多くの歯科医院経営者が「自分のサジ加減」で采配を取ることで失敗し、その後の問題が大きくなると解決出来ないことがとても多くあるように思えます。

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